Tales of Racty -- 第二話

始まりの終わり

 

「イミュロウジの第二王女ラクティよ! ここの指揮官に会わせなさい!」

 王宮をでた翌日の夜、私は要塞をさらに南下した位置にある街道北前線司令部の宿舎テントに到着していた。

 名乗り出たあと、そのまま宿舎内に進もうとする私の進路を、テント横で待機していた騎士が槍で塞ぐ。周りにいた数名の騎士も雰囲気を変えこちらを睨みつけているのがわかった。

「申し訳ありませんラクティ様、指揮官殿から誰も通すなとご命令を承っております」

「シス!」

 私が呼びかけると、傍らにいたシスが背負っていた大剣を構え、即座にその切っ先を騎士の首に添えた。

「邪魔しないで。槍を下ろしなさい」

 冷酷に聞こえるように話す。それでもわずかに騎士は渋ったが、シスが剣先を少し押し当てるとすぐに槍を引っ込め肩に担いだ。

「私が中に入っても邪魔しないように。ーーシス、あなたならできるわよね?」

「この人数なら大丈夫なのです。おじょーさまは安心して中に」

 シスの言葉が頭にきたのか、周りの騎士たちの雰囲気がさらに険悪なものにかわる。だが、何も心配はいらない。シスがそうそうやられる訳がないことを、私は知っている。

 

 テントの垂れ幕をくぐると、そこにはスーツ姿の戦場にはふさわしくない男がテーブルの上の地図をみながら何かを飲んでいた。

「ん? 何者だ?」

 私に気づいたその男が声をかけてきたが、それを言い終わる前に私は即座に走り寄り背中に担いでいた戦闘棒セプターを男ののど元に突きつける。

「アンタがここの指揮官ね?! ルナお姉ちゃんをどこにやったのよ!」

「な、い、いったい何の事だね?」

 おびえながらも、すっとぼけた調子で聞いてきた男の胸をセプターで突き飛ばす。

「ぐえっ」

「とぼけないで! 私はお姉ちゃんほど甘くないわよ?」

 仰向けに寝転んだ男の左腕を踏みつけマウントポジションのまま首元にセプターの先を押し付ける。

「お、お前、あの娘の妹か……」

「ほら、知ってるんじゃない。お姉ちゃんはどこ?」

「ぐ……街道北から山麓に入る途中から西に入った林の中の……旧要塞外部地下牢」

「え、確かそのへんって……山賊の根城が近い場所じゃない! 何考えてんのよアンタッ!」

「うへへ、もう閉じ込めて二日になる。高貴なお嬢様のもそろそろ山賊の慰み者になってるだろうよ」

 のど元を押さえられながらも男は声を絞り出した。

「そんな……あの強いお姉ちゃんがそんなことなる訳ないじゃない!」

「ヘッ、あのお嬢さん、魔法は一流らしいけどなぁ。でも、魔法が使えたら、の話だろ?」

「どういう事よっ!」

「なぁに、ちょっと薬をもって犯られやすくしてやったってだけの話よ」

 そして男は下卑た笑いを漏らした。

「〜〜〜! この下衆ッ!」

 私は思い切りその男の脇腹をセプターでぶん殴った。

「あんたなんか寝てなさい!」

 そして続けざまに、浮き上がった男の頭を気絶させるように強打してやると、男はそのままぐったりとその場に寝込んだ。

 

—————

 

「おじょーさま! 急いで出てください! 周りの騎士たちが集まってきそうです!」

 指揮官を寝込ませた直後、シスがテントに入ってきてそう伝えた。

「ええ、こっちも終わったわ。急ぐわよ」

 そして二人してテントをでて宿舎群から走って抜け出し、休ませていた馬のところに向かおうとした——そのときだった。

 

世界がすべて光と爆音に包まれた錯覚

意識すらも白く激しく飛び散る

幻想のような意識の中で

シスに手を伸ばすも届かなかった

 

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