Tales of Racty ――プロローグ

星空、母殺しの姉妹

 

「旦那さま! 旦那さま!」

廊下をばたばたと女中の一人が駆けて行く。そして、一つの部屋の前で急停止し、ノックもせずにドアを開けた。

「旦那さま! お生まれになりました! 女の子が二人です!」

女中の報告を聞いて、部屋の奥の机に向かっていたエルフの男がゆっくりと立ち上がり、振り向く。

「それで、アークの容態は?」

「奥さまは……奥さまは……お亡くなりに、うぅぅ……」

女中はこらえていたものがあふれるように、その場に泣き崩れた。

その様子を男はじっと眺めているように見える。だが、どこか別の所を見ているようにも見えた。

「アーク……そうか、産んだか……」

男はそれだけつぶやくと、女中をその場に置いて部屋を出た。

―――――

その日の夜、王宮の屋上にその男はいた。

男の眼前には二つのゆりかご、そしてその先には一つの蓋の空いた棺桶があった。

いつくしむように、ゆりかごの中の二人を覗き込み、悲しみながら棺桶の前に立ち、さらにいつくしむようにゆりかごを覗き込む……

こんなことを、なんどか繰り返したあと、男は着ていたローブのポケットから一枚の紙を取り出した。

「二人の子を、もし産むことが叶うなら、月と星の名をそれぞれに与えてください

一人は月として夜の間でも民を照らせるように

一人は月の迷いし時の助けとなる星となるように

戦争続く夜の世界に、二人が標となりますように」

それは、アークが枕の下に隠していた遺書だという。

男――サン王は、その遺書を棺桶に入れ、蓋を閉じた。

そして王は、二人の娘を抱き上げ、星空に掲げた。

 

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